それもまた相変わらずな 3 〜ようこそお隣のお嬢さん編

   ハニーサニーサイドアップ
 


幼子の笑顔は何にも勝る宝玉のようではあるが、
当然のことながら自分では何もできない非力な存在でもあるので、周囲からの助力は必須。
生まれながらの親などいないので、
様々な試行錯誤の末にともに育ってゆくわけだが、
ありゃ失敗しちゃったかな?では済まないような事態が起きないように、
親御以外からの助けも是非とも惜しみなく降りそそいであげてほしい。

「きゃうvv」

武装探偵社にすれば、突然の小さな子虎、もとえ幼女の出現である。
正確には身柄確保対象であったコソ泥の異能者からの悪あがき、
目くらましにという不意打ちを食らっての“年齢後退”効果で幼女にされてしまった中島敦ちゃんであり。
もともとからして愛らしい存在だったものが、ますますと可愛らしくなり、
白銀の髪に宝石みたいな色合いの双眸やら色白な頬、
華奢な少女だったころも愛らしい素養だったそれらを
まんま3頭身のふくふくした幼女Ver.に縮小されてしまったがため、
もみじのようなお手手を振り回してはご機嫌さんだとはしゃぐ様子が何とも可憐で愛らしい。

「…誰とは言わんが、どっかの首領には絶対に逢わせたくないね。」
「不本意ながらこそりと同意するぜ。」

こらこら あんたたち。(そこも男女逆転しているなら、女子は安全なのでは?笑)
女性が多いとはいえ、子育てには縁がない顔ぶればかりな探偵社だから…というわけではなかろう、
むしろ見せびらかしたくて外へ連れ出したらしい思惑が素通しだぞと呆れられた太宰女史の暴挙で、
ポートマフィアの知己らを呼び出したカフェにてのお披露目を図ったものの、
幼い子供を連れ歩くのに必須なあれこれ、何も持って来なかった辺り
彼女自身もどれほど物慣れしていないかは如実であり。

「ママバッグの中身は?」
「う〜んとねぇ。」

自分で用意したものではないがため、
肩から提げたまま。大きめのバッグの中を覗き込もうとするズボラな保護者の様子に。
わあと同行者たちが慌てて見せ、
片腕でその懐に抱えられていた幼子を赤毛の女傑が取り上げる。

「ちょ、何すんの、中也。」
「何すんのじゃないだろが。」

一応のスリングをお尻あたりに回してあったが、それでも不安定な態勢には違いなく。
何より抱えてる本人の注意だって大きく逸れ掛けたまま片腕抱きとなった流れへ、
共に街路を歩み始めていた中也嬢と鏡花少年が慌てて手を伸ばしたまでのこと。
そんな二人の手の陰から、
さりげなく芥川が伸ばしたらしい羅生門でのスリングもどきも巻き付いており、
なんてまあ完全防備な“お守り”があったものである。
その身が ぐらぁと傾きかかってた敦本人はといえば、

「だあちゃ、だぁ。」

あやされたとしか思ってないか、
愛らしく双眸をたわめて きゃきゃっとはしゃいでいるのが何とか救い。
恐いものなしなところがタフであるが、それだけ無防備とも言えて、

「まったくもう。」
「何よ、もしかして妬いてるの?」
「何へどう妬くンだよ、この状況。」

やり取りはやや乱暴だが、それはもう綺羅らかな集団で。
一人一人が際立つ個性は、誰が一番秀でて麗しいとならず、
どの女史もそれぞれのタイプでの特級レベル。
なので、好みが真っ向から割れてしまい、
推しと推しとで大喧嘩になりかねないそれは罪な一団だ。
すらりと背の高いことと小さな天使を抱えていることから場の中心となっているのが、
甘い栗色系の黒髪を背の中ほどまで伸ばしている女性で。
ぱっちりと大きな双眸に端正に整った面差しは知的で表情も豊か。
均整の取れたすらりとした四肢なのがよく映える
スーツを思わせる内衣やストライプのシャツ、ループタイにセミタイトなスカートというコーデの
マニッシュな印象がするいでたちは、職場でめきめきと台頭中のキャリアウーマンぽいが。
ややはっちゃけた朗らかな言動もほどよく似合う、闊達そうなタイプにも見えて。

 “いやいやいやいや、それ物凄い誤解招いているから。”

誰ですかそんな正直な。笑
今はテンションが常のそれではないので確かに誤解は招きそう。
天才的に頭が切れる才媛で、しかも見栄えが妖麗なため
斜に構えれば 淑やかにも艶やかにも雰囲気を変えられて。
寂しそうに伏し目がちになっても、口許を煽情的に歪めても、
男性を思いのままホイホイできる恐ろしさ。
元はマフィアでそれなりの地位にいたほどの実績付きでもあり、
闇社会で名をあげた逸物なこと、覚えている者は幹部格にほど まだまだ数多いることだろう。

「なあ、敦。めんどくせぇ姉ちゃんだよなぁ?」

そんな面倒臭い妖女をあっさりと薙ぎ払い、
あどけない幼女を奪取したのが、ワイルドなシャギーカットの赤い髪も鮮烈な、
元相棒が艶美な白百合なら、こちらは華麗なる赤い薔薇。
小柄で見ようによっては10代の少女コーデも出来るような闊達さをまとう女性だが、
柔軟で強靱な肢体は、ただただコンパクトグラマーなだけじゃあない、
ヨコハマの闇社会を統べるマフィアでも随一という体術の使い手が 鍛錬を重ねて磨き上げた代物で。
まま それは今回さておくにしても、
蒼宝珠のような綺羅らかな双眸を鋭角に据えた目許や、
表情豊かで組織への反逆者へはそりゃあ冷酷な笑みも紡げる魅惑の口許を、
今は楽しげな甘い笑みで綻ばせ、忌々しい女から取り上げた愛らしい幼女を大切に抱えてのぞき込む。

「そもそも、一番子育てに向いてない奴が何やろうとしてたんだかだよなぁ。」
「それ、中也にだけは言われたか無いんだけれど。」

私これでも教える立場にいたくらいだし、今だって敦くんの教育係なんですけれどなぞと言い出す太宰嬢なのへ、
それってあんたには重石つけとかないとどこへ姿くらますか判らんって警戒されてのことなんじゃね?と、
なかなか鋭いところを言い返す、素敵帽子のお姉様だったりし。

「………。」

そしてそんな二人の春蘭秋菊の傍らで日頃以上に口数少なに添うているのが、
今時分の外着としてあまりに突飛すぎて目立ちまくるだろう
真っ黒な長い外套という職務用のいでたちじゃあない、
襟だけ白い別布仕立ての藍色のワンピースという大人しめの装いに、
冷房除け用なのかサマーニットのカーディガンを腕へと抱えた黒髪の少女で。
表情も薄く、何なら気配も薄く構えているものの、
ふと視線が止まれば…繊細そうな端麗さに目が離せなくなるこちらもなかなかの美少女であり。
風貌は精緻に整い、目鼻立ちもゴシックな陶貌人形のそれのようで、
黒々と濡れた双眸や小さな口許は華奢な肢体にも いとそぐうだろう透徹した雰囲気だが、
ひとたび “任務”に掛かればその印象はあっさりと引き裂かれる。
殺戮のみへと特化した黒獣を駆使し、
衣紋の色合いが変わるほどの血しぶきを撒き散らす冷酷な女主
……だなんて物騒な横顔を、今の彼女から誰が想像し得るだろうか。

 花屋の店先に色々な花がそれは麗しく咲き誇っているように、
 誰が一番と争う必要なんてない、
 誰もがオンリーワンなんやでという有名な歌があるじゃあないか。
 ついでの余談だが、初夏と秋にさくフクシアという花がある。
 まるで凝ったイヤリングみたいに可憐なので
 (エンジェルスイヤリングとか貴婦人のイヤリングという愛称もあるほど)
 是非ともググって画像で確かめてほしいvv

「久しぶりの女性版だからか、もーりんさんがたぎっておられる。」
「暑さ負けしてたはずだけどもね。」

う〜るさいわねぇ。(笑)
ちなみに、話題になりかけてたところの
与謝野先生&国木田女史監修のママバッグの中身はというと、

『綺麗に前歯が生えてるから、もう卒乳している年齢だろうね。』

1歳ちょっとくらいの、離乳食から幼児食への移行段階らしいとあって
粉ミルクはないが湯冷ましを入れたストローマグに、
パンツタイプのおむつを一応当てているのでその替えとおしりふき。
小さめのブランケットにワンピースタイプの着替えと靴下の替え、
汗をかくかもということで 非アルコールのウェットティシュにガーゼハンカチ数枚とタオル。
ビニール袋にウェハースや乳ぼうろなどのおやつ、
除菌グッズに冷えピタや虫よけの乳液などが収まっている赤ちゃん向けの救急ポーチというところ。

 「あと、乱歩さんがこれを本人に付けとけって。」

鏡花少年がとりだしたのは、柔らかい素材の赤ちゃんの手のひらサイズのタグで。
ちぎりパンのようなふくふくな腕の手首あたりにくるんと綿ゴム製のバンドでゆるく巻きつけると、
なんだこれ?とさっそく関心を示した敦本人が顔に寄せ、
口許に引き寄せてあぐあぐと甘噛みを始める。

「おっと。大丈夫か?」
「うん。歯がためといって噛むことは推奨なんだって。」

虎の顎の力は出せなかろうし、
破砕されたのを飲み込んでも 安全な素材だから構わないとのお墨付きらしく、

「迷子札だから、万が一のことがあっても追跡可能だって。」
「…成程なぁ。」

大かた GPS機能のある端子かチップでも挟まっているのだろう。
そしてそんなところへ気を回した名探偵さんだったというところから何か察したか、
中也が背の高い母代理へちろりんという視線をやれば、

「な、なんだよ。いくらなんでも私が敦くんを放りだすと思うのかい?」

何を想定されたかくらいは判るか、口許尖らせる太宰嬢なのが判りやすい。
他の、例えば敵対組織への潜入なり襲撃なりといった段取りや、
その前哨戦がらみのやり取りならなんぼでも引き出しもあろう彼女でも、
幼子への対処となると未経験なところだらけなのは明白。
しかも、だったら適材適所で他の人間へ丸投げすればいいところだが、

「うう?」

ヒマワリ型にデザインされたタグを咥えたまま
なぁに?と小首をかしげて見上げてくる、
そりゃあ幼い敦ちゃんのつぶらでうるうるな双眸に視線が合うと

「うあぁあ〜〜、なぁんて可愛いのぉvv」

小さい子なんて面倒なばっかりと思ってたのだけれど、
敦ちゃんだと思えば本当に話は別だよねと、
何とも判りやすく…推しに悶えるミーハーぽい反応で
せっかくの美貌もぎゅうと縮める勢いで甘い悲鳴を上げるのだから
普段の澄ましてばかりな彼女をようよう知る周囲にすれば意外や意外。

「敦だからってのは納得がいかんでもないが。」
「一緒に居させるの、危険。」

鏡花と中也嬢が思いきり眉をしかめ、

「……。」

あまりぎゅうぎゅうと締め過ぎぬようにというストッパーか、
先程敦ちゃんの胴回りにくるんと伸ばした羅生門ベルト、そのまま輪っかにして保ちつつ、
白い頬をほんのりと染めて、小さな虎の子ちゃんをじいと見やり続ける黒姫さんだったりもし。

「…とりあえず、アタシの部屋に移動だ。
 取り上げられたくないならキリキリ歩めや、青鯖女。」
「何よ、中也のくせに偉そうっ。」

何やら波乱でも起きそうなのか、とりあえず街路を賑やかに移動中の彼女らなのであった。






to be continued.(22.08.20.〜)


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 *書きたいところだけ書いてみた、赤ちゃんになっちゃった編
  何だかもうちょっと続くようです。
  あまりの酷暑に頭が回ってないのにね。(笑)
  ネット乗り換えに振り回された夏なので、それへの八つ当たりもちょっとはあるかもです。(…怒)